鼓室形成術で鼓索神経を操作あるいは切断した時、同側の舌前3分の2に味覚障害がおこると言われているが、臨床上重要な問題であるにもかかわらず、その程度や回復過程を詳細に検討した報告は非常に少ない。今年度は臨床的研究を行なった。中耳手術後の味覚障害の程度、再生を長時間(術前、術後2週、6ヵ月)にわたって、電気味覚検査(EGM)及びろ紙ディスク法で測定した。また、術後2週間は術前味覚閾値正常であった症例を選んで連日EGM閾値の測定を行なった。現在までに明らかになった点は以下のとうりである。 (1)慢性中耳炎、真珠腫性中耳炎患者のEGM閾値はそれぞれ10.6±13.8dB、10.3±12.5dBであり、正常閾値8dBを超えていた。しかし、味覚障害を訴える患者はいなかった。 (2)後は鼓索神経の切断、保存にかかわらず、EGM閾値は上昇していた。 (3)鼓索神経を切断した場合、術後舌のしびれ等を訴える率は17.6%に対し、切断しない場合は31.8%と高率であった。 (4)鼓索神経を保存した場合、6ヵ月後のEGM閾値の回復率は、20歳以下で83.3%、21-40歳で44.4%、41-60歳で44.4%であった。20歳以下の若年者は、傾向検定で有意に回復率が高かった(p<0.005)。 (5)鼓索神経を切断した場合、手術後1年以上経過するとEGM閾値の高い部分の面積が若年者において減少していた。 (6)術後の自覚的他覚的味覚障害は、耳硬化症のような非炎症性疾患の方が重篤であった。来年度は動物実験を中心に進める予定である。
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