マウスを用いて内耳有毛細胞で機能することが予想される新規のモーター蛋白質であるキネシン様蛋白質(DAK:Deafness associated kinesin)の解析を行った結果、以下に示すような知見が得られた。 DAKのアミノ酸配列をもとに合成したペプチドを用いて新たに2種の抗ペプチド抗体を作製し、これを用いて、採取したマウス内耳蝸牛管およびその組織切片の免疫染色を行った。その結果、内有毛および外有毛細胞さらに外柱細胞に強く発現が認められ、さらに蝸牛神経細胞にも発現が認められた。一方、DAKの突然変異による聴覚障害が予想されるJackson shaker(js)マウスにおいても同様の解析を試みた結果、その発現は明らかに低下しており、特に有毛細胞においては発現がほとんど認められなかった。さらに、ミオシンVIIaの異常により聴覚障害を引き起こすShaker-1(sh1)マウスにおいてもその発現は低下していた。また、ミオシンVIIa間の相互作用を検討するため、ミオシンVIIaに対する抗体を用いて、抗体カラムを作製し、ホモジネートから精製した抗原蛋白質に対するウェスタンブロッティングを行ったところ、DAK由来のバンドが検出されたことから、両者の相互作用が示唆された。 また、内耳におけるDAKとミオシンVIIaの相互作用を個体レベルで検討するため、jsマウスとsh1マウスを交配し、2重変異マウスの作製を試み、現在までに両者の合成異型接合体を作製することができた。このマウスの表現型を解析した結果、行動においては両者のホモ個体で認められるような異常は確認できなかった。また、ABR(Auditory brainstem response)により聴力を測定した結果においても3ヶ月齢までは正常な閾値を示しており、内耳の形態学的異常は認められなかった。
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