本研究の目的は(1)細胞間輸送能を持つVP22の効果を網膜組織において検討すること、(2)抗アポトーシス遺伝子bcl-2、bcl-xlを産生する組換えウイルスを作製し、網膜変性ラット、網膜虚血再灌流モデル動物に対する治療的効果を検討することである。これらの研究から新しい遺伝子導入法の開発とその応用を試みた。 (1)前年度はアデノウイルスベクターを用いてVP22とEGFPの融合タンパクを産生する組換えウイルス(AxCAVP22EGFP)を作成した。本年度は、この組換えウイルス体を正常ラット網膜下、網膜変性ラット網膜下へ注入し遺伝子導入効率、蛋白伝播効率を調べた。いずれのラットにおいても網膜色素上皮細胞には、in vivoでも効果的にGFP蛋白が伝播され、注入部位全般に蛍光が確認された。一部、視細胞にも蛍光を発する細胞を認めたがAdeno-associated virus(AAV)、Human Immunodeficiency Virus(HIV)ベクターで報告されているほどの伝播効率は認めなかった。 (2)抗アポトーシス蛋白bcl-xLを発現するAxCAVP22bcl-xLを作成した。現在、細胞培養系および、網膜変性ラットモデル(RCSラット)60匹を用いて、AAVCAbcl-xLと神経細胞保護効果について比較検討した。網膜色素上皮細胞および視細胞にも遺伝子が導入されたことが確認され、電気生理学的、および組織学的に有意な差が認められた。 以上の結果から、bcl-xLを産生する組換えウイルスは網膜神経細胞のアポトーシスを強く抑制することから、網膜変性症の遺伝子治療の有用な候補遺伝子と考えられる。
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