1)電気生理学的検討 生後10〜14日のDAラットからシート状に新鮮分離した網膜色素上皮細胞に対してパッチクランプ法の一種である単一チャネル記録法を行った。その結果、網膜色素上皮細胞のapical側細胞膜からは約22pS(細胞外液、ピペット溶液のカリウム濃度は伴に145mM)のコンダクタンスを持つカリウムチャネルの活動が記録された。このチャネルは高い開口率(0.7〜0.9)を示し、また開口時にノイズであり(open noise)、内向きのコンダクタンスに比し、外向きのコンダクタンスは非常に小さかった。これらの特徴は既知の内向き整流カリウムチャネルの一種であるKir4.1に一致するものであった。 2)分子生物学的検討 電気生理学的検討よりKir4.1が網膜色素上皮細胞で発現する否かを検討した。まず、ラット網膜色素上皮細胞から抽出した全RNAに対して、ラットKir4.1の特異的プライマーを用いてRT-PCRを行った。その結果、ラット網膜色素上皮細胞にKir4.1のmRNAが存在することが確認された。 3)免疫組織学的検討 抗ラットKir4.1抗体および上皮細胞のマーカーである抗サイトケラチン抗体を用いてラット網膜切片を2重染色した。その結果、抗Kir4.1抗体の染色像は網膜色素上皮細胞のapical microvilliに強く見られ、この部分では抗サイトケラチン抗体の染色像と一致していた。 こららのことから網膜色素上皮細胞に内向き整流カリウムチャネルの一種であるKir4.1がapical膜に機能的に発現していることが強く示唆された。網膜色素上皮細胞のapical に存在する内向き整流カリウムチャネルは網膜下腔のカリウム濃度の恒常性維持に重要な役割を果たすと考えられており、今回の結果はこれまで不明であったその構成要素を分子生物学的手法を用いて初めて同定した意義深いものと考えられる。
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