視神経切断端に末梢神経片を移植吻合すると、視神経再生が促されるだけでなく、網膜神経節細胞(rettinal ganglion cells; RGCs)の細胞死をも防げることが示唆されていた。しかし、この生き残っている網膜神経節細胞については、同定することが困難であるため、網膜内分布等の情報は明らかでなかった。そこで、2重染色法により軸索再生細胞と生存細胞を染め分けて、両者の網膜内分布や細胞体直径を調査した。 フェレット-側視神経を切断し、切断端に坐骨神経片を自家移植した.一ヶ月後、移植片にGB(Granular Blue)を注入し軸索再生細胞を標識した。同時に単離した網膜をC38抗体で免疫染色し、生存細胞を同定した。 網膜中心部では、正常の約21%のRGCsが生き残っていた。一方、周辺部では47%の細胞が生存しており、移植片の生存促進効果は網膜周辺部に強いことが示唆された。生存細胞に対する軸索再生細胞の割合は、中心部で26%であるのに対し、周辺部ではわずか3%であった。これは、移植片の生存細胞に対する軸索再生力が、網膜中心部でより強いことを示唆する。さらに細胞体直径の計測により、生存細胞のうち細胞体直径の大きな細胞が、軸索を再生していることが明らかになった。 以上の結果から、軸索切断に抗して生き残る能力と、軸索を再生する能力は、網膜内のRGCsの位置と、細胞体直径の大きさにより決められているとが強く予想された。 一方で、in situ hybridizaionにより、homeodomainをもつ複数の転写因子が、RGCsの特殊なサブグループに限局して発現していることが明らかになり、現在確認を急いでいる。私はこれまで一貫して、転写レベルで異なった調節を受けるRGCsのサブグループについて報告してきており、生存や軸索再生といった生物学的な性質さえも、同じく転写レベルで調節されていることが考えられる。軸索再生、逆行性変性過程でhomeodomainをもつ転写因子の発現を解析することにより、中枢神経細胞の生存、軸索再生の分子機構の解明が期待される。
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