研究概要 |
N-myc蛋白は、胎生期の神経芽細胞に強く発現し、その細胞分裂を促進し分化を抑制していると理解されている。その具体的機能は核内蛋白としてE-box motifに結合する転写因子であるとされているが、詳細は不明である。神経芽腫におけるN-mycの機能の解明は、高悪性度の神経芽腫の本態を明らかにすることになり、治療戦略の根本的な再構築に結びつくことになる。本研究では神経芽腫の中で機能するN-myc蛋白の働きを明らかにするため、N-myc cDNAをアデノウイルスベクターに組み込み、N-myc発現アデノウイルスを作成し、N-mycの増幅のない神経芽腫培養細胞に感染させ、N-mycが神経芽腫の増殖、分化、細胞死に働く機構を解析する。平成11年度は、まずアデノウイルスベクターの作成を行った。当教室でクローニングしたヒト全長N-myc cDNAをアデノウイルス・コスミッドカセットpAxCAwtに組み込み、大腸菌に感染させシングル・クローンを得た。各クローンの制限酵素消化パターンにより、N-mycの組み込みの順方向、逆方向を確認した後、順方向のクローンを親ウイルスAd5 dIXと共に293細胞に感染させ、組み換えアデノウイルスAXCACHN-mycを作成した。次に、N-myc遺伝子の増幅の無い神経芽腫培養細胞SK-N-SHにN-myc発現アデノウイルスをmoi=1,5,20で感染させたところ、N-myc遺伝子が増幅した神経芽腫培養細胞IMR32を凌ぐN-myc蛋白の発現が、moi=20において誘導されることがWestern blottingで確認された。また、遺伝子導入後の細胞形態と増殖動態を解析したところ、moi=1,5では、細胞の形態が丸みを帯び、神経突起の短縮が観察された。しかし、細胞増殖に影響は見られなかった。moi=20で感染させると、1週間前後より細胞死が観察され、この現象はコントロールアデノウイルス(LacZ)では認められなかった。
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