ヒト歯列のような有根歯における萌出現象は、歯根象牙質形成と無細胞性セメント質の添加、さらには咬合平面に到達した時点での有細胞性セメント質形成への転換と有機的に連関している。ラット切歯などの常生歯は生涯にわたって歯質形成と萌出を続けることから、エナメル質および象牙質の形成量やその構造・組成・性状が萌出状態によって大きく影響されてくる。本年度においては、ラット切歯と臼歯を対象として、長期間にわたるbisphosphonate(HEBP)経口投与下での萌出速度の違いと歯槽骨での石灰化異常(類骨形成)について検討した。その結果、臼歯はアンキローシスに陥り、萌出抑制と咬耗をきたすこと、HEBP投与の中止に伴い可逆的に骨改造が誘起されることが確かめられた。歯質(エナメル質と象牙質)の石灰化度の変化と結晶組成・性状の変化を調べていく一環として、元素分析(X線マイクロアナリシス)と顕微フーリエ変換赤外分光法によりアパタイト構造のフッ素化と炭酸化について論文報告した。また、共焦点レーザ顕微鏡による細胞蛍光標識の観察と3次元像の構築、ならびに非脱灰標本の連続断面画像のコンピュータ解析による立体構築法について確立した。次年度にいおては、(a)両側切歯を切端切除による非咬合歯、(b)両側切歯をピン止め固定、(cとd)片側のみを非咬合歯あるいは固定歯、反対側を無処置歯(咬合歯)に設定して、萌出異常に伴うラット切歯の構造変化と硬組織形成細胞(エナメル芽細胞と象牙細胞)の形態変化について検討する。
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