本研究は脳虚血・再灌流障害や老化過程に関与すると考えられるラジカル反応性の高い活性酸素種の作用メカニズムとそれによるDNA傷害からの修復機構を解明することを目的としている。これまでに、培養神経細胞とアストロサイトを過酸化水素(H_2O_2)で処置すると、DNAの断片化に代表されるDNA傷害を引き起こしながらそれぞれの細胞死が異なった時間及び濃度依存性を示すこと、H_2O_2は神経細胞ではなくアストロサイトにおいて、ウリジンではなくチミジンの取り込みを促進し、細胞外液と細胞内Ca^<2+>貯蔵部位からのCa^<2+>の細胞質への流入に依存すること、さらに、チロシンキナーゼ情報伝達系も影響を及ぼすことを明らかにしてきた。 そこで本研究の初年度は、サイトカインをはじめとした種々のストレスによって活性化されることが知られている細胞内情報伝達系が、H_2O_2によるDNA障害と修復機構に対していかなる影響を及ぼすかについてウエスタンブロットを用いて検討した。 アストロサイトのH_2O_2による処置は短時間においてp38 MAPKを活性化した。p38 MAPK阻害薬はH_2O_2によるチミジン取り込みと細胞死を抑制した。これらのことより、H_2O_2によるチミジン取り込みと細胞死に対して、p38 MAPKの活性化が関与することを明らかにした。 また、H_2O_2によるアストロサイトにおける障害や回復に関与する可能性のある蛋白質発現をディファレンシャル・ディスプレイ法により遺伝子レベルで検討したところ、いくつかの差異遺伝子を検出した。これらの差異遺伝子が発現量に差があるmRNAに由来するのかを現在確認するとともに、これらの遺伝子がどのような役割を果たしているのかについて、シーケンシングやノーザンブロットなどを行い検討することとしている。
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