研究概要 |
本研究では,耳下腺腺房細胞における刺激応答性アミラーゼ分泌の分子機構の解明を目的として,SNAREタンパク質の一つであるVAMP2の機能調節について解析を行っている.我々は既に,非刺激時には分泌顆粒膜に存在する何らかのタンパク質XがVAMP2に結合しており,腺腔膜側に存在するt-SNAREとの結合を妨げていることを見いだしている.このVAMP2の複合体は,cAMP依存性プロティンキナーゼ(PKA)の活性化によって解離する.これにより,VAMP2とt-SNAREの結合が可能になり,開口放出が引き起こされると予測される.今回VAMP2とXの複合体の性質について解析を行った.このVAMP2複合体が,分泌膜顆粒膜上に存在するSNARE複合体であり,PKAによる解離はNSFによるプライミングである可能性について検討した.VAMP2タンパク質は,ボツリヌストキシンB(BNT-B)のプロテアーゼ活性によって特異的に切断されるが,SNARE複合体形成時には切断されないことが知られている.そこで,可溶化した分泌顆粒膜に含まれているVAMP2がBNT-Bによって切断されるかどうか検討したところ,VAMP2は効率よく切断された.したがって,分泌顆粒上に存在するVAMP2複合体は,SNARE複合体ではないことが予測される.また,VAMP2複合体の解離に対するATPアナログの効果を検討した.ATPアナログの一つであるATPγSはPKAの基質になりうるが,NSFによるSNARE複合体の解離は阻害することが知られている.耳下腺に存在するVAMP2複合体の解離は,ATPの代わりにATPγSを用いても効率よく引き起こされた.したがって,この反応にはNSFは必要ではないといえる.これらのことから,分泌顆粒上に存在するVAMP2複合体はSNARE複合体ではなく,VAMP2の機能発現を担う新しい複合体であると考えられる.
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