日本人のへリコバクターピロリ(HP)感染率は高く、胃、十二指腸などの上部消化管における慢性炎症性疾患の原因であるとされている。HPは主として経口による感染経路をとるが、HPの口腔内感染状況は明らかにされていない。また、喀痰におけるHP保有状況も明らかではない。いわゆるねたきり老人の習慣的な誤嚥と関係して喀痰のHP感染の可能性が推測される。HPの口腔内感染状況を調べたところ、検体中68%が口腔内感染陽性であったこと、胃HP感染とHP口腔内感染の有無と相関しない(P>0.05)ことを昨年の研究実績として報告した。本年度は、喀痰におけるHPの検出を試みた。医院を受診した患者の喀痰をスポイドで採取し、除タンパク質後、DNAを抽出し精製した。このDNAを鋳型としてHPのUreI遺伝子にプライマーを設定し、この領域を増幅した(First PCR)。First PCR産物を鋳型にして、UreI遺伝子のプライマーの内側にnestedプライマーを設定し、さらに増幅した(Second PCR)。2回のPCRを行うことにより、他の細菌による非特異的な増幅を防ぐことができる。その結果、喀痰におけるHP保有者は24検体中19検体(79%)であった。内視鏡的呼気試験及び生検組織のギムザ染色による検鏡試験による診断から、臨床的にHP感染陽性と診断された群における喀痰のHP保有者は11検体中9検体(82%)、HP感染陰性と診断された群における喀痰のHP保有者は13検体中10検体(77%)であった。以上のことから、喀痰におけるHP保有者率は、口腔内感染率よりも高いこと、口腔内感染と同様に胃HP感染の有無と相関しない(P>0.05)ことがわかった。
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