現在ひろく臨床応用されている人工歯根(インブラント)は、その保持を骨癒着に求め、歯根膜を欠如することから、様々な機能を満足できない状況にある。そこで、歯根膜由来培養細胞を用いて人工的にインブラント体周囲に歯根膜組織を構築することを目指している。本研究では、歯根膜再生過程、ならびにチタンなどの人工歯根が存在した場合の歯根膜組織修復過程を解明するため、イヌおよびラットを用いて組織学的ならびに免疫組織化学的に検討した。 1.歯根窩洞における再生過程:ラット歯根に骨から象牙質に至る欠損を作製し経時的に観察を行ったところ、歯根膜は既存歯根膜組織からのみ再生し、同時に無細胞セメント質の再生も認められた。 2.歯根窩洞にチタンを挿入した際の歯周組織の反応について:ラット歯根窩洞にチタン片を埋入したところ、残存歯根膜に接した部位において、チタン片表面にセメント質の形成を伴った、歯根膜様軟組織の形成が観察された。しかし、骨組織と面した部位では、いわゆるosseointegrationが観察された。歯根膜様軟組織をアザン染色したところ、チタン表面にほぼ垂直な線維の走行が認められ、また、同部の線維芽細胞はアルカリフォスファターゼ活性陽性を示した。以上の結果から、既存の歯根膜組織に隣接する部位に限局して、チタン表面の歯根膜組織形成の可能性が示唆された。 3.歯根窩洞に培養歯根膜細胞を播種した場合の歯周組織の反応について:イヌ歯根窩洞に培養歯根膜由来線維芽細胞を播種したところ、播種しない場合と比較して、残存歯根膜に近接した部位では明らかな違いが見られなかった。しかし、残存歯根膜から離れた部位では、細胞を播種した場合において有細胞セメント質の形成が見られたが、細胞を播種しなかった場合にはみられなかった。また、培養細胞をBrdU標識することにより、窩洞内に播種細胞が3ヶ月間残留していることが証明された。以上の結果から、今回の培養歯根膜線維芽細胞の播種により、有細胞セメント質の再生が促進される可能性が示唆された。 4.歯根窩洞に培養歯根膜由来線維芽細胞およびチタンを挿入した際の歯周組織の反応について:イヌ歯根窩洞に培養歯根膜線維芽細胞とチタン片を播種・埋入した。その結果、埋入されたチタン片と窩底面の間に、新生セメント質様構造物の形成を伴う歯根膜様軟組織および新生骨様組織が形成されていた。形成されたセメント質様構造物は有細胞セメント質様構造物であり、無細胞セメント質の再生には至らなかった。これらの観察結果より、播種した培養歯根膜線維芽細胞には、新生骨組織を伴った歯根膜組織をチタン片上に再構築しうる可能性が示唆された。 今後、さらに播種細胞および播種方法についての検討が必要であると思われた。
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