研究概要 |
歯科医療で使用されている合金に含有される20種類以上の金属元素のうち,口腔内の金属補綴修復物から溶出した元素が原因と考えられる金属アレルギー症状などの障害が報告されるようになり,為害性が低いとされてきた歯科用合金についても,条件により注意を払う必要がでてきている。生体組織を構成する細胞は,周囲の環境変化やウィルス感染などによる外界からのストレスに対し,「ストレス応答」と呼ばれる防御機能を持つ。各種ストレスに対応する遺伝子により一群のストレスタンパク質が細胞内で合成・誘導され,自らをタンパク質の変性などから防御する分子シャペロンとしての働きは,金属イオンなどの化学物質に対しても同様の防御機構が関与すると予想され,細胞内ストレスタンパク質の発現の様相を把握することについては,金属アレルギーの発症機序を理解する上で欠くことのできないテーマである。ストレスタンパク質群としてhsp27に着目し,培養細胞としてラット骨肉腫由来であるROS17/2.8細胞,マウス繊維芽細胞のL929,ヒト子宮頸部癌由来のHeLa細胞を選択し,金属元素と生体組織の違いによる細胞の応答性とその機序について比較検討を行った。研究計画の最終年度にあたり,アレルゲン性の高いニッケル,コバルト,クロムに加え,チタン,カドミウム等の金属イオンについて培養細胞における試適投与濃度を決定したところ,カドミウムについては他の金属よりも同濃度における毒性が強いことが確認された。また,金属塩を投与した培養細胞における金属元素の取り込みを観察,回収した細胞から細胞内金属元素を測定し,電気泳動法によりROS17/2.8細胞においてhsp27を確認し,ROS17/2.8におけるhsp27発現性が他の細胞に比べてやや高く,hsp27が細胞外からの金属塩の毒性に対して防御的にストレスタンパク質を合成している可能性を示唆した。
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