本研究は咀嚼筋に対する疲労負荷試験の影響を調査することを目的とした。咀嚼筋痛の既往のない健常者20名に対して、かみしめ強さが最大の50%となるかみしめを1分間の休憩をはさんで繰り返し行わせ、実験的疲労を誘発した。 実験前後の咀嚼筋の経時的反応を咀嚼筋痛の程度、圧痛閾値、咬合力から評価した。安静時の咀嚼筋痛の程度はVisual Analog Scale(VAS)を用いて計測した。圧痛閾値の計測は咀嚼筋群6部位(咬筋浅部、深部、側頭筋前部、中部、後部、胸鎖乳突筋)と顎関節部(外側部、後部)に対して行った。咬合力の計測には富士写真フィルム社製デンタルプレスケールを用いた。それぞれの測定項目は実験的疲労負荷前、疲労負荷1日後、2日後、3日後、7日後の各時点で行った。 その結果、被験者全体での解析では、咀嚼筋痛の程度は負荷試験1日後に有意に大きな値を示した。さらに男女で2群に分けた解析では、咀嚼筋痛の程度は、男性群、女性群とも1日後に最大の値を示したが、女性群のみ他の測定時期と比較して有意差が認められた(p<0.05)。さらに、女性群の咬筋深部の圧痛閾値は、1日後に最小の値を示し、負荷試験前、7日後と比較して有意差が認められた(p<0.05)。一方、男性群では、いずれの部位にも有意差は認められなかった。以上のことから、男女により疲労負荷試験に対する顎口腔系の反応が異なることが示唆された。
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