研究概要 |
これまでの我々の研究では,歯科用セメントに口腔内抗菌性蛋白質であるリゾチームを5%の添加することでS.Mutansなどに対し,抗菌性を示すことが分かった。 本研究では上記の方法を応用し,義歯性う蝕,義歯性口内炎,義歯性肺炎などの原因となる菌に対する口腔内抗菌性蛋白質の抗菌効果について検討するために,まず義歯用レジンに直接リゾチームを添加した材料が抗菌性を示すかどうかについて,菌のリゾチームによる加水分解程度を吸光度計にて調べることにより評価した。今年度の実験は義歯性う蝕関連菌に対しのみ行った。またレジンに対するリゾチームの吸着状態を調べるために,粉砕したレジンをカラムに充填し,それにリゾチームを流し吸着させ,重水素交換した後,核磁気共鳴装置でリゾチームの水素-重水素交換程度を測定することとした。 リゾチームを添加した義歯用レジンはS.Mutansに対し,歯科用セメントを用いた実験の時と同様に抗菌性を示した。しかしその抗菌性はリゾチームを添加した歯科用セメントに比較すると,弱いものであった。これは義歯用レジンのモノマーやレジンを重合する段階での熱によるリゾチーム自体の変性のためであると考えられる。この方法ではレジンに添加したリゾチームが変性した時点で抗菌効果は期待できなくなる。そこでレジンに蛋白質が吸着する可能性を探るため吸着実験を行ったが,ほとんど吸着はしなかった。我々は以前,リゾチームを歯質の硬組織の主成分であるアパタイトへのリゾチームの吸着状態を解析し,アパタイトの負電荷とリゾチームの正電荷が吸着に関与している,という結果を発表した。つまり電荷を有しないレジンではリゾチームを吸着させ,抗菌効果を期待することは困難であると考えられる。
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