象牙質コラーゲンとグラスアイオノマーセメントの高分子成分の系をモデル化した、水溶性コラーゲンとポリアクリル酸(PAA)の相互作用を調べるに当たり、ウシ皮膚コラーゲン(I型)(CSC)の水溶性を向上させる化学修飾を行った。すなわち高pH下でCSCの塩基性アミノ酸残基に無水コハク酸を作用させることでコハク酸を導入し、コラーゲン全体の陰イオン性を高めることで、本来酸性でしか溶けないCSCを中性pHでも溶けるようにした(SCSC)。濁度滴定によると、SCSCの等電点はpH4.1付近にあると推定された。 PAAとの相互作用によって、特徴的なSCSCの三重らせんからランダムコイルに高次構造が変化することが期待されたので、pH3とpH7において円二色性(CD)スペクトルを測定した。その結果pH3においては、以前蛍光スペクトル測定から両高分子間に相互作用の見られたモル化に近いPAA/SCSC=0.4付近でCD強度が減少し、ピーク位置が長波長側にシフトする挙動が見られた。しかし、これは両高分子の微小な不溶性会合体形成による影響である可能性も排除できないので、より希薄な系で同様の実験を行う必要がある。 一方、SCSCもPAAも水溶性であることを利用して、両高分子の相互作用をゲルろ過HPLC(GPC)で調べるための予備実験を中性pHで行った。ここではポリアクリル酸の代わりに、水溶性の接着性分子であるメタクリル酸-2-ヒドロキシエチル(HEMA)を用いた。その結果、HEMA濃度と共に(1)SCSCの会合体であると思われる溶出の早い成分のピークが小さくなり、(2)単量体と考えられるピークの強度が増し、その位置が低分子側へシフトした。これはHEMAとの相互作用によってSCSCの会合挙動およびコラーゲン分子の剛直な構造が影響を受けていることを示唆する。
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