1.対象および方法:口腔原発の多形性腺腫3例、粘表皮癌1例、Warthin腫瘍1例、筋上皮腫1例を用いた。コントロールとして正常顎下線9例を用いた。 (1)免疫組織化学的検討;4μmの厚さの凍結切片を作成し、1次抗体として抗ヒト・ルートレット抗体R-67、monoclonal-anti-γ tubulin、monoclonal-anti-acetylated tubulin、2次抗体として、FITCあるいはRodamineをラベルした抗マウスまたは抗ラットIgG抗体を核染にはTOPRO3を用いて蛍光抗体法にて染色し共焦点レーザー顕微鏡にて観察した。γ-tubulinは中心子を染めるため、acetylated tubulinは線毛を染めるために用いた。 (2)電顕観察;観察用試料は組織を薄切後、2.5%グルタールアルデヒド+2%パラホルムアルデヒド、四酸化オスミニウムで二重固定し、エタノール系列で脱水後、EPON812に包理した。超薄切片は酢酸ウラン、クエン酸鉛で電子染色し、透過型電子顕微鏡(JEM200CX)にて観察した。 2.結果:正常の顎下腺では、ほとんどのすべての細胞にルートレットの染色陽性像がみられた。導管部と終末部を比較してみると導管部ではルートレットは、長いものは10μmを越え、ループを作ったり、分岐したりと多様な形態を示した。多型性腺腫ではほとんどの細胞にルートレットの強い染色陽性像を示した。Warthin腫瘍では、細胞すべてに陽性像がみられ、二重上皮の基底側の細胞とリンパ球では反応が弱いのに対して嚢胞腔側の細胞には強い反応が見られた。粘表皮癌および筋上皮腫では、ほとんどすべての細胞に陽性像がみられた。R67で染色されるルートレットとおもわれる線状構造と中心子との位置関係について多形性腺腫の例で検討した。ルートレットの一端は中心子と重なり合っていた。また、ルートレットに線毛が存在するかどうか、線毛をanti-acetylated tubulinにて染色した。正常の唾液腺では線毛がほとんどみられなかったが、多形性腺腫では約10%に線毛の形成がみられた。電顕所見については粘表皮癌の例では中心子に付随してルートレットが、伸長し、細胞質内に横紋構造をもったルートレットが観察された。 3.結語:ルートレットに対する特異抗体を用いて、正常唾液腺と唾液腺腫瘍について免疫組織化学的および電子顕微鏡にて検討した。正常細胞、腫瘍細胞のいずれにおいても孤立線毛の形成の有無にかかわらず、ほとんどすべての細胞に陽性所見がみられた。中心子には線毛の形成と関係なくルートレットが形成されることが示唆され、今後、このようなルートレットの意義について検討の予定である。
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