研究概要 |
刺激に対する生体の反応は,その刺激の与え方によっても左右されることは知られている.たとえば,刺激の来訪を事前に予測し,それが実際の刺激と一致する時と,一致しない時では,反応が異なることは容易に想像される.そこでまず,電気刺激に先行して,予告音刺激を被験者に与え,刺激の来訪を予測できる場合の誘発電位の変調について検索をこころみた.実験方法は,試験刺激(歯への電気刺激,刺激間隔はランダム)に1秒先行して,トーンビープの予告音刺激を聞かせる試行と,予告音刺激なしで,試験刺激のみの試行とで比較を行った.今までに、以下の事が明らかになった. 1)潜時100msec.以降に主たる4頂点(N1,P1,N2,P2)を持つ誘発電位が記録され,N2-P2振幅は導出部位7点の内,Cz(頭頂部)が最大を示した. 2)歯への電気刺激の1秒前に予告音刺激を与えると,N2-P2振幅,P2潜時は有意に減衰するが、3秒5秒と時間を延ばしていくと逆に増加する.(稲田 穣:歯への電気刺激誘発電位の予告音刺激による変調 口病誌63,2,313〜333,参照) これは、予告刺激と電気刺激の間に(特に先行時間が1秒の時)、一種の関連(linkage)が発生したと考えられる. そこで、今回その関係を検索するために、被験者に対して、予告音刺激の先行時間を変化させるのではなく、常に1秒の施行を数回繰り返し行い、その後ランダムに電気刺激が欠落する場合を施行し考察を加えた.その結果、測定中の欠落した事象のみを集め、加算平均することを試みたところ、実際には電気刺激がないにも関わらず、誘発電位が観測される事を明らかにした. しかしながら、その波形は全被験者に見られるものではなく、全く測定できない皮験者もいる.この現象は、予告刺激→電気刺激の施行に被験者がどれだけlinkageしているかによるものと思われる.
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