アパタイトセメントは、硬化体がアパタイトになるため、優れた生体親和性と骨伝導性を示す生体活性セメントである。また、焼結体アパタイトは全く骨と置換しないが、アパタイトセメントは長期的にではあるが、骨と置換すると報告されている。両者ともその組成はアパタイトであるが、結晶性の相違が、骨伝導性や骨との置換の有無、すなわち骨芽細胞および破骨細胞の活性化に大きな影響を及ぼしていると考えられる。しかし、これまでにその詳細は明らかにされておらず、また細胞レベルの研究は全く行われていない。そこで今回、骨伝導性および骨置換に関するアパタイトセメントと焼結体アパタイトの差異を細胞レベルで明らかにすることを目的とし、培養骨芽細胞による骨形成と培養破骨細胞による吸収性について検討した。 アパタイトセメントを粉液比2.0で練和し、37℃、相対湿度100%の条件下で24時間硬化させたディスク上硬化体を試料とした。対照として焼結体アパタイトを用いた。アパタイトセメント硬化体、焼結体アパタイトのディスク上に、ヒト骨芽細胞を播種し、初期接着性、骨芽細胞数の増殖(MTT法、3H-チミジンの取り込みによるDNA合成能の定量化)および骨芽細胞の分化マーカーの発現(アルカリフォスファターゼ活性の測定、ELISA法によるTypeIコラーゲンとオステオカルシン発現量の定量化)について検討した。その結果、初期接着性および細胞増殖に関して、アパタイトセメントと焼結体アパタイトとの間で有意な差は認められなかった。しかし、骨芽細胞の分化マーカーの発現に関しては、検討したすべての時期でアパタイトセメントは、焼結体アパタイトに比較して有意に高い値を示した。これらの結果から、アパタイトセメントは、焼結体アパタイトより、骨芽細胞の分化を促進させることが明らかとなった。今後、培養破骨細胞を用い、セメントの吸収についての検討を行う予定である。
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