正常口腔粘膜培養細胞および口腔扁平上皮癌(OSCC)細胞株における上皮系細胞特異的な中間系フィラメント、サイトケラチンの発現をRT-PCR法により検索した。サイトケラチン13(Cytokeratin、K13〉、K14、K18およびK19では、発現量に違いが認められたが、いずれも全てのアイソフォームを発現していた。単層培養という環境変化により、重層上皮組織における分化依存性アイソフォーム発現様式が破綻したか、サイトケラチン発現自体が生理的に細胞の形態・機能変化に伴い発現様式を変化させると考えられた。造血系細胞など上皮組織以外にもK19発現が誘導されることを考慮すると、遺伝子導入によるこれらのプロモーター依存的発現誘導は遺伝子治療に適しているとは云い難い。 上皮系腫瘍の臨床的悪性度の指標として転移能や浸潤能、さらに血管新生能が挙げられる。固形癌における血管新生過程はエネルギー源供給という合目的性以外にも低酸素環境によるストレス抵抗性癌細胞のクローン化にも貢献していると考えられている。VEGFやGLUT1は低酸素誘導遺伝子群に分類されており、特にGLUT発現に関して転写因子遺伝子発現を加えてRT-PCRによる検索を行った。低酸素培養により、OSCC細胞株においてGLUT1発現亢進およびVHL発現増加に伴う経時的GLUT1発現低下が観察されたが、正常粘膜培養細胞で観察される一過性のEgr-1およびGLUT2発現亢進は認めなかった。高糖培養においては正常口腔粘膜培養細胞に認められるGLUT2発現誘導の糖濃度依存性が消失していた。癌細胞内は恒常性維持必須物質の動的・質的変化によるリン酸化や酸化還元状態の変動に伴い組織構築や遺伝子発現に異常を来すのであろう。口腔組織特異的な遺伝子発現誘導の解明には、口腔癌における低濃度培養におけるGLUT2発現亢進の機序を明らかにすることも必要であろう。
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