癌細胞が転移するための重要なステップである癌細胞と内皮細胞との接着に着目し、内皮細胞上に発現するEセレクチンとそのリガンドで、癌細胞上に発現される糖鎖抗原シアリルルイスA(SLe^a)が口腔扁平上皮癌のリンパ節転移と相関することを免疫組織学的に見い出した。これをマウスによる癌転移実験モデルを用いたin vivoの実験において証明することを試みた。 (1)FACSにて口腔扁平上皮細胞株8種のSLe^aおよびシアリルルイスX(SLe^x)の発現の解析を行うと、SLe^xは全ての細胞株において軽度の発現が認められたが、SLe^aは2株において高度発現が認められたのみで、他の細部株では全く発現が認められなかった。 (2)SLe^a(+)またはSLe^x(+)の6株をSCIDマウスの尾静脈から細胞数5×10^5を注射し、4週間後に屠殺して肺への転移を調べた。SLe^aを発現していない4株は肺に転移巣を形成しなかったが、SLe^aを高度に発現していた2株は共に90%の頻度で肺に転移していた。 (3)この2株をSLe^xおよびSLe^aの中和抗体でそれぞれ処理した後、SCIDマウスの尾静脈から注射し再度肺への転移を調べると、SLe^xの中和抗体で処理したマウスでは肺への転移を抑制できなかったが、SLe^aの中和抗体で処理した場合は、それぞれ転移頻度は40%と0%に低下していた。このことからSLe^aが口腔扁平上皮癌の転移に重要な役割を果していることが示唆された。
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