研究概要 |
平成11年度は免疫調整剤であるサリドマイドをCCI(chronic constriction injury)モデルに使用し、その疼痛関連行動を抑制することから活性化マクロファージが産生するTNF-α(腫瘍壊死因子)がallodynia、hyperalgesiaなどの慢性疼痛に関与していることを明らかにした.しかし、その抑制効果が十分でないと思われたため、サリドマイドの増量(50mg/kgを250mg/kgに)および免疫抑制剤であるサイクロスポリンSを使用して再度、検討した.今回は、正弦波電流刺激を利用し神経選択的にその閾値を計ることが可能なCPT(current perception threshold)を使用し疼痛閾値の測定を行った.結果、サリドマイドの増量の効果は認められなかったが、サイクロスポリンSに関してはサリドマイドに比較して有意に疼痛関連行動を抑制することが分かった.これは、慢性疼痛にはTNF-αのみが関与するのではなくその他IL-6,IL-8等も関与するためと思われ、より広い免疫抑制作用を有するサイクロスポリンSが有効であったと思われる.本年度はさらに免疫組織学的に検討した.対象の組織はCCIを行ったラット坐骨神経とDRG(dorsal ganglion)および脊髄後角とした.その結果、シュワン細胞、血管内皮細胞、線維芽細胞、マクロファージでTNF-αが産生されることが明かとなった.また、サリドマイドはその産生を抑制する効果が認められたが、それは活性化マクロファージのみではなくその他の産生細胞にも効果が認められた.サリドマイドが直接的に作用したか、活性化マクロファージのTNF-αを産生することが他の産生細胞を抑制したかは明らかではない.サイクロスポリンSではサリドマイドに比較してさらにTNF-α産生を抑制した.以上より慢性疼痛にTNF-αが関与していることは明らかであるが、炎症性のサイトカインは互いに影響しあっているため複雑な機構を有している.従って、その他の炎症性サイトカインの検討も必要である.
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