研究目的:顎顔面の変形症に対して施行される骨延長術や顎矯正手術が周囲の表情筋や骨格筋へ及ぼす影響を検察するとともに、このような間接的な侵襲により筋線維に萎縮が生じた場合のメカニズムを検索することを目的とする。 実験方法:実験動物にはウサギ(日本白色種)を用い、頬骨耳筋を露出させ起始停止と周囲栄養血管に侵襲を加えずに支配神経である顔面神経のみを切断し、完全な脱神経筋とし、直接侵襲が加わった場合の実験対照とした。次いで表情筋と顔面神経に損傷のないように下顎骨を露出させ骨延長期を装着し下顎骨を徐々に延長させ、間接的な筋組織への侵襲を加え実験群とした。 検索方法:術後1日から24週までの期間を検索時期とし、それぞれの群において採取した表情筋についてH-E染色、SDH染色、ATPase染色を行った。 結果:手術侵襲そのものによって筋線維内には炎症性細胞浸潤が認められた。また、炎症性細胞浸潤が認められない部分、すなわち手術侵襲が加わっていないと考えられる筋線維においても筋線維の萎縮が認められた。さらに術後週齢が増すことにより、再生したと考えられる幼弱な筋線維が出現し、対照と比較して筋線維のタイプ構成に変化が認められた。 展望:今後、間接的な侵襲により変化したと考えられる筋線維の生理学的特性と生化学的特性を組織化学的に詳細に検査する。また、筋線以内のβ-NGFの検索と神経接合部に局在するPGP活性から筋萎縮と神経筋接合部との関係を観察する。さらに神経接合部ではBrdUをラベリングし生体内の増殖期でDNA合成期にある細胞核を鏡検し、膜蛋白質神経細胞接着分子のN-CAMの変化と筋萎縮との関連を検索する。
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