高齢者への麻酔薬投与(吸入麻酔)や神経組織の感受性、薬物動態に関しては不明な点が多く、とくに分子レベルでの解明が急がれている。最近麻酔の作用メカニズムの解明に向けて、分子生物学的アプローチが試みられており、今回吸入麻酔薬であるセボフルランによる老若齢マウスにおけるアポトーシス関連遺伝子の発現について研究を行った。 【方法】老化促進マウス(SAM)の若齢マウス(生後3ヶ月)、老齢マウス(生後14ヶ月)を用意し、麻酔第3期(手術適応期)を得るようセボフルラン数%を吸入させた。30分維持後、各マウスより脳を摘出し、全RNAを抽出した。また、覚醒6時間後、同様に脳を摘出し、全RNAを抽出した。RT-PCRは既に報告されているアポトーシスの関連遺伝子であるLICE、Bcl-2、Bax、Bcl-XS、Bcl-XL、GAPDHをプローブとして用いて行った。得られたPCR産物は、2%アガロースゲルにて電気泳動を行い、その画像をコンピューターに取り込んだ後、各遺伝子の発現量をデンシトメトリーにて確認した。 【結果および考察】アポトーシス関連遺伝子の1つであるBcl-XL遺伝子においてmRNAの発現量の差が認められた。 Bcl-XL遺伝子は、アポトーシス抑制遺伝子の1つであり、今回の結果から吸入麻酔薬であるセボフルランによって老齢、若齢マウスとも脳細胞でBcl-XL遺伝子が変動している可能性が示唆された。今後、吸入麻酔時間、覚醒後の経時的変化についてさらに検討を進めていきたい。
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