研究概要 |
高齢者社会を迎えつつある中、歯の喪失はQOL(Quality of Life)を阻害する重要な問題であるが、残念ながら現在80才の人の平均歯数は4本が現状である。中高年が歯を喪失する原因の一つに歯周疾患(歯槽膿漏)が上げられるが、これらに対する予防法は十分確立されていないため充分な効果を上げていない。 口腔組織において、ヘパラン硫酸は歯肉、歯根膜、歯槽骨の細胞外マトリックスの構成成分であり、歯周疾患において、炎症時の歯周ポケットからの浸出液中にコンドロイチン硫酸鎖や、ヘパラン硫酸鎖が検出されるなど、組織の炎症と密接に関連している。シンデカンは、1988年にBernfieldらのグループによって発見された新規のプロテオグリカンで、ヘパラン硫酸やコンドロイチン硫酸を側鎖にもつ細胞膜貫通型のコア蛋白質である。しかしながらシンデカン遺伝子の研究は日が浅く、ヒト口腔組織において正常および歯周病罹患時の挙動に関して、遺伝子レベルでの動態を調べた文献はない。 今回、ヒト歯周組織から単離した歯根膜細胞培養系を用いて、以下の結果を得た。 1)歯根膜細胞は、2.3kbのシンデカン-2,2.6kbのシンデカン-4mRNAを発現していることをノーザンブロット法を用いて確認した。しかしながら、シンデカン-1mRNAの発現は確認できなかった。 2)歯根膜細胞を長期間培養することによって,分化を誘導することができた。すなわちアルカリホスファターゼ活性が、培養20日まで経時的に増加し、その後は活性レベルを高レベルに維持した。この培養系にてシンデカン遺伝子の発現レベルを検索した。歯根膜細胞が未分化な状態では、シンデカン-2およびシンデカン-4mRNAを高レベルに発現していたが、培養20,25日目では、これらの発現レベルが低下していた。 以上の結果から、歯根膜細胞はシンデカン-2およびシンデカン-4mRNAを高レベルに発現していることが明らかとなった。さらに歯根膜細胞の分化に関連してこれらの発現レベルが変動することが判明した。 従って、シンデカン-2およびシンデカン-4は歯根膜細胞の細胞外基質の構成成分として何らかの役割を果たしていることが推測される。
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