歯周組織を構成する細胞は口腔内に常在する細菌の菌体成分や菌体外産物の刺激を常に受けている。歯周病は歯周組織構成細胞がこれらの刺激に対して過剰に反応し、歯周組織における免疫ネットワークが撹乱されるために発症するとの作業仮設をたてて、研究を進めてきた。本年度は歯周組織構成細胞のなかでも最初に侵襲細菌やその産物に晒される細胞である歯肉上皮細胞を供試して研究を行った。すなわち、歯肉上皮細胞を健常者から分離・培養し、炎症性サイトカインや歯周病関連細菌の菌体成分で刺激した。インターフェロン(IFN)-γで歯肉上皮細胞を刺激すると細胞膜表層に接着分子Intercellular adhesion molecule-1(ICAM-1)が発現した。さらに、IFN-γで刺激した歯肉上皮細胞の培養上清中にはIL-8やgranurocyte macrophage-colonystimulating factor(GM-CSF)などの炎症性サイトカインが検出された。一方、歯周病関連菌の菌体成分、すなわちPorphyromonas gingivalisのfimbriaeやPrevotella intermediaから抽出した非内毒素性の糖蛋白質、PGPの刺激によっても歯肉上皮細胞の膜表層にはICAM-1の発現が認められ、培養上清中にIL-8およびGM-CSFの分泌の亢進が確認された。さらに、歯周病関連菌の菌体成分で刺激した上皮細胞ではMMP-9の産生が亢進した。ICAM-1は多形核白血球の上皮細胞への付着に関与し、IL-8は多形核白血球の走化因子である。また、MMP-9は増殖上皮周囲の創傷間で作用し、上皮細胞の移動、再生に重要な役割を担っている。このことから歯肉上皮細胞は単に細菌の侵襲を機械的に阻止するバリアの役割だけでなく、接着分子を発現したり炎症性サイトカインを分泌することによって炎症の拡大に関与し、MMP-9を産生することで創傷の修復に関与すると考えられる。以上の結果から歯肉上皮細胞は歯周病の病態に深く係わっていることが示唆された。
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