「食べること」は、生命の存続にとって、必要不可欠な行動である。一連の消化吸収の過程において、口腔は第一の器官であり、食物の性状変化に応じて巧妙に営まれる咀嚼中に口腔内諸器官から絶えず送り続けられる感覚情報は、中枢で統合処理され、運動出力される。本研究では、エネルギー代謝の中枢性調節における咀嚼時の口腔内感覚の役割について、解明を試みることを目的とする。飼料の違いによる食事誘導性熱産生について調べるために、口腔内感覚が異なる飼料として、離乳直後より固形飼料または粉末飼料で飼育した正常ラットの体重成長曲線を比較すると、成長のスパートを過ぎた頃から、固形飼料群の体重が粉末飼料群より大きくなった。内臓脂肪量に関しても、成長期には両群間で有意な差は認められず、体重差が有意になった頃より、固形飼料群尾の内臓脂肪量が有意に大きくなった。各飼料で飼育した成長期のラットの体温変化を、摂食、飲水、運動測定装置内で、無麻酔無拘束下、腹腔内に慢性的に埋入した体温測定用テレメトリーセンサーと受信ボードを用いて測定した。その結果、1日の体温変動について比較すると、明期と暗期の体温変動幅が、粉末飼料飼育群のほうが大きいことがわかった。ラット体内にあらかじめ慢性留置術を行った心臓カテーテルより無麻酔無拘束下で採血を行い、エネルギー代謝調節に関与する血中の液性物質の変化についても検討した。以上のことから、性状の異なる固形飼料と粉末飼料は、咀嚼時に異なる口腔内感覚を生じさせ、消化過程や代謝に異なる影響を与える可能性が示唆された。現在、食事に伴う褐色脂肪組織そのものの温度変化や、自律神経系を介した中枢メカニズムと口腔内感覚の関連性について検討中である。
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