ヒトの口腔常在菌の主体をなすビリダンスレンサ球菌群は、感染性心内膜炎の主要な原因菌であり、感染成立の第一段階である損傷心弁への細菌体の定着には、宿主の細胞外マトリクスタンパク質、なかでもフィブロネクチン(Fn)が関与すると考えられている。心内膜炎誘発性のビリダンスレンサ球菌の一つ、Abiotrophia adiacensのFnに対する結合が菌体表層のどのような物質によって担われているかを明らかにすべく、菌体表層の水溶性物質を抽出し、イオン交換、疎水結合、ゲル濾過等、種々のカラムクロマトグラフィーによってFn結合性物質の精製を試みた。その結果、主として分子量約49kDaのタンパク質からなるFn結合活性を示す粗精製画分を得たが、これ以上に純度を高めることはできず、また抗体作製の為の免疫原として用いるに十分な収量を確保することは困難と判断された。そこで、全菌体を免疫原にして、第一に菌体細胞表面への結合性を指標に一群のマウスモノクローナル抗体を作製し、次いで菌体のFnへの結合を阻害する活性を指標に再度スクリーニングすることを計画した。そのため第一に、全菌体に対するマウスポリクローナル抗体を誘導するための至適条件を検討した。次いで、菌体のFn受容体に特異的な抗体を検出するための測定系を樹立し、上記で決定したの至適免疫条件で得られた抗血清には菌体のFn結合を阻害するポリクローナル抗体が含まれることが確認された。こうして確立された条件および抗体活性スクリーニング系を活用して、現在細菌細胞表層フィブロネクチン受容体を認識するモノクローナル抗体の作製を進めている。
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