研究概要 |
本年度は低原子価ケイ素化学種の酸素および硫黄原子親和性を利用した還元反応、脱酸素的グリコシル化反応の2つに的を絞り、実用的な反応の開発を目指して研究を行った。 まず本研究を開始する端緒となった、ジクロロジメチルシラン-亜鉛-ジメチルアセトアミドの3成分から成る還元系を用いる芳香族スルホニルクロリドの還元反応の基質一般性について検討したところ、幅広い基質を用いた場合にも高い収率をもって目的とする芳香族チオールが得られたが、メトキシ基のような電子供与性置換基をもつ芳香族スルホニルクロリドでは反応が一部ジスルフィドの段階で停止するという興味深い実験結果が得られた。さらにこの場合、添加剤としてジメチルアセトアミドに代えて1,3-ジメチルイミダゾリジン-2-オンを用いると、還元反応は再びチオール選択的に進行し、高収率で芳香族チオールが得られることが明らかになった。このように添加剤として組合せ用いるアミド系化合物の種類によって還元活性種の反応性が大きく変化することを計算化学的な手法により解明することを試みた。その結果、カルボニル酸素の電子密度が高いアミド系添加剤を用いた場合ほど反応系は高い還元力を示すことが明らかとなった。これは、還元反応の際に生成する低原子価ケイ素活性種の濃度がケイ素原子に対するアミド系添加剤の相互作用の強さによって大きく変化することを示す重要な知見と考えている。ここで開発された実用的な芳香族スルホニルクロリドの還元反応の詳細と得られた知見の一部を速報としてまとめ、Tetrahedron Letter誌に投稿し、既に受理・掲載された。 脱酸素的グリコシル化反応については、グリコシルカーボネートを糖供与体として用いる反応において、1級および2級アルコールとのモデル的なグリコシル化反応が進行することを見いだした。これについては、次年度以降にさらに詳細に検討していく予定である。
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