ベンゼン環が4個連なったカリックス[4]アレーンの誘導体は種々のゲスト分子との結合能が盛んに研究されている化合物群である。筆者はこれまでにカリックス[4]アレーンのlower rimを種々のペプチドで修飾した約5万の分子種からなるライブラリーの構築に成功している.そこでまずライブラリーのゲスト分子に対する結合能力を調べるため、色素でラベルした数種のペプチドとライブラリーのバインディングアッセイを行った。その結果トリペプチドと強く結合するレセプターが見いだされ、その結合定数が約2万であることがわかった。 合成したライブラリーの基質に対する認識能力が確認されたので、次にゲスト分子の結合によって光学特性が大きく変化する蛍光性残基の選択とその導入位置を検討することにした。バインディングアッセイで見いだされたレセプターのN末端に蛍光発色団としてピレニル基を導入したものを液相合成した。その蛍光スペクトルはピレンのモノマーの蛍光である390nm付近の蛍光が大きく減少し、480nm付近に極大波長を有する分子内エキシマーの蛍光が強く見られ、両側のペプチドのアームが互いに近づきあっていることがわかった。さらにこのレセプターとゲスト分子を混合し、その蛍光スペクトルの変化を調べた。両側のアームの間にゲストが入り込み、エキシマー由来の蛍光強度が大きく減少することを期待したが、予想に反しスペクトルにはほとんど変化が見られなかった。この理由は調べるためこのレセプターを樹脂につなげ、色素で標識したペプチドと混合したが樹脂は全く染色されなかった。このことよりスペクトルに変化が現れなかった原因がピレニル基の導入によるゲストの認識能が大きき低下したためであることがわかった。現在蛍光発色団を有するライブラリーを合成してゲスト分子と結合実験を行なうことを計画している。
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