角質層は生体の恒常性維持を担っており、そのバリアー機構の実体を解明することは、皮膚の生理機能及びその異常を理解する上で重要な課題である。そこで本研究では、角質細胞膜の直下に形成され、不溶性タンパクからなるcorneocytle envelope(CE)の角質バリアーとしての役割を生物物理学的に解析した。本年度は、組織レベルでの解析を中心に検討を行った。まず、正常マウスおよびCE形成不全を引き起こすtransglutaminaseI遺伝子ノックアウトマウスより皮膚を摘出し、collagenase処理することで角質層を単離した。得られた角質層をスピンプローブ5-doxylstearic acid(5-DSA)でラベルし、ESRスペクトルを測定した上で角質層脂質膜のオーダーパラメータを算出した結果、特に両マウス間で違いは認められなかった。一方、反射FTIRスペクトル法を用いて角質層脂質に由来する基準振動スペクトルを測定した。その結果、正常マウスではCH2の対称および逆対称伸縮のスペクトルが認められるのに対し、ノックアウトマウスではその吸収スペクトルが消失していることが見出された。この結果に基づいて、transglutaminaseI遺伝子の欠損により、CE形成不全が起こるとともに、脂質の合成あるいは細胞間への分泌の阻害により角質脂質構造の形成にも何らかの障害が起きていることがわかった。しかしながら、CEと膜構造安定化の関係については依然として不明であり、来年度には皮膚より単離した表皮細胞を培養し、その系でCEと細胞膜との相互作用について検討する予定である。
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