研究概要 |
1 チオールを求核剤として用い,シクロデキストリン(CDと略)-マンノエポキシド及びCD-アロエポキシドの開環反応を行った。その結果,アロエポキシドの反応において,環構造を保ったCD誘導体を主生成物として簡便に得た。一方,マンノエポキシドの反応においては,環構造を保ったCD誘導体を低収率で得た。よって,CDの環構造を保った上,その二級側の炭素に官能基を直接連結する唯一の方法の開発に成功した。 2 PhCH_2SHとCD-マンノエポキシドの開環反応をモデル反応とし,HPLCを用いて様々な反応条件を検討した。その結果,溶媒,反応温度等が反応速度に大きな影響を与えるが,反応の選択性に大きな影響を及ぼさない事を知見として得た。 3 CDの環構造を保った上,その水酸基の代りにチオール基を2位又は3位の炭素に直接導入し,2-又は3-チオCDを,CD誘導体の合成に汎用性のある中間体として開発した。更に,これらのチオCDを触媒として用い,エステルのアシル基転移反応を検討した。その結果,p-ニトロフェニルアセタートのアシル基転移反応において,3-チオ-β-CDは2-チオ-β-CDより20倍も高い活性を持つ事を見出した。CDによるエステルのアシル基転移反応についての研究は三十数年間も続いてきたが,アシル基は最初にCDのどの水酸基へ転移するのかがまだ不明のままである。本研究はこれを解明するに新たな知見を提供する事が出来た。 4 Na_2SとCD-マンノエポキシドの反応を検討した。その結果,Na_2Sは,他の求核剤に比べ,より高い収率で環構造を保ったCD誘導体を与える事を見出した。 5 CDエポキシドの開環反応において得られる歪んだ生成物についての研究も新たに展開した。その結果,アルトロース単位を有するCDはその環構造に柔軟性を示し,ゲスト分子を取り込む際,ゲスト分子の形状に応じて相補的に構造変化する酵素-基質の誘起適合型包装に似たような性質を見出した。
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