拡張主成分分析法による『糖-脂質膜』相互作用の研究

1999 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 11771417
• 研究機関: 神戸薬科大学
• 研究代表者: 長谷川 健 神戸薬科大学, 薬学部, 助手 (30258123)
• キーワード: 主成分分析法 / 脂質薄膜 / 赤外分光法 / 微量薬品分析 / 水素結合 / 微量残存水 / ニ糖類 / 膜構造保護機構

研究概要

主成分分析法(PCA)は、元来、多次元空間内の点を整理し、主要な要素の相関を明らかにする方法であるが、本研究では、この方法をスペクトル解析と結びつけることで、微量薬物分析法に活用できるとねらいを付け、新たな分析の概念を創成することから始めた。このため、数式に隠れたPCAの動作原理を徹底的に洗い出すことから始めた。まず、スペクトルを多次元空間内の点に変換し、スペクトル変化が点の変化にどのように反映するかを考え、これを整理した結果、純成分スペクトルと多成分系スペクトルの本質的な違いを明らかにした。これに基づき、微量化学種が示す微弱なスペクトルが、混合スペクトルからPCAによって分離可能であることを理論的に示唆した。この予想は、シミュレーションによって正しいことが裏付けられ、実際の実験に適用した。
測定した試料は、乾燥させた脂質薄膜(DPPCの単分子Langmuir-Blodgett(LB)膜)にショ糖を種々の濃度で相互作用させたものである。これは、赤血球細胞や一部の植物が乾燥条件を耐え抜くメカニズムを明らかにするためのモデルとして行った。本研究で構築した拡張PCA法を適用した結果、理論的予想通り、膜中に極微量に存在する水分子の存在をとらえることに成功し、またこれが膜のPO^-_2基部分に強く水素結合していることを明らかにできた。
このほか、バルビツール酸誘導体とトリアミノトリアジン誘導体の単分子膜間相互作用を分光学的に検討し、二次元分子集合系の間に形成される全く新しい水素結合様式を見いだすことに成功した。これは、代表者が構築した、赤外分光法による分子配向解析の理論を適用した結果明らかになったものである。
さらに、積層簿膜のうち、第一層目のみ温度応答の異なる膜の構造変化を議論するため、新しい拡張分子配向理論を構築し、octadecyldiaminomethyl oxide積層膜の熱相転移の詳しいメカニズムを、はじめ明らかにできた。

研究成果

• [文献書誌] Takeshi Hasegawa: "Detection of Minute Chemical Species by Principal Component Analysis"Analytical Chemistry. 71. 3085-3091 (1999)
• [文献書誌] Takeshi Hasegawa: "Thermal Property of an Octadecyldimethylamine Oxide Multilayer Langmuir-Blodgett Film Studied by an Expanded Model for Quantitative Molecular Orientation Analysis with In-frared Reflection-Absorption Spectrometry"Journal of Physical Chemistry B. 103. 11124-11128 (1999)
• [文献書誌] Takeshi Hasegawa: "Hydrogen Bonding Network Formed Between Accumulated Lamugmuir-Blodgett Films of Barbituric Acid and Triaminotriazinen Derivatives"Journal of Physical Chemistry B. 103. 7505-7513 (1999)
• [文献書誌] Takeshi Hasegawa: "An Infrared Study of Molecular Orientation and Structure in One-Monolayer Langmuir-Blodgett Films of Octadecyldimethylamine Oxide and Dioctadecyldimethylammonium Chloride; Dependence of the Structures of The Langmbuir-Blodgett Films on Substrates,Aging,and pH of Water Subphase"Langmuir. 15. 6890-6896 (1999)
• [文献書誌] Takeshi Hasegawa: "Infrared studies of mixed Langmuir-Blodgett monolayers of octadecyldimethylamine oxide and dioctadecyldimethylammonium chloride with arachidic acid and poly(acrylic acid)"Surface Science. 427/428. 107-110 (1999)
• [文献書誌] Takeshi Hasegawa: "Effect of Surface Roughness on Infrared External Reflection Spectroscopy"Anal.Chim.Acta(Vib.Spectrosc.). 19. 199-203 (1999)