今までに酵母シスプラチン耐性因子として、ロイシンジッパー塩基性(bZip)領域を持つ転写因子Cin5及びYdr259cの同定に成功している。両因子はそのbZip領域内の相同性からYapファミリー蛋白質であると考えられており、中でも酵母にジアミド等様々な薬毒物に対して耐性を与える転写因子yAP-1との相同性は非常に高い。両因子は共にジアミド添加により誘導されるyAP-1活性を抑制し、また両因子によるシスプラチン耐性がyAP-1欠損によりさらに強く表れることから、両因子はyAP-1のリプレッサーとして働き、このことがシスプラチン耐性と何らかの関わりがあるものと考えられた。そこでCin5の様々な変異体を作製し、これを用いてCin5の核局在およびyAP-1活性抑制と酵母のシスプラチン感受性に及ぼす影響について解析した。その結果、Cin5の核局在、yAP-1抑制活性およびシスプラチン耐性にはいずれも、bZipを含むC末端領域(193-295a.a.)が必要であることが明らかとなった。さらにyAPファミリー蛋白質の塩基性領域内で高度に保存され、またそのDNA結合活性に重要であることが報告されているアミノ酸である2つのグルタミンおよびフェニルアラニン(Q246、Q251、F254)をアラニンに置換することにより、Cin5によるyAP-1活性の抑制およびシスプラチン耐性が共に認められなくなった。以上の結果から、Cin5による転写活性の抑制が酵母のシスプラチン耐性に重要な役割を果していると考えられる。しかし、yAP-1欠損酵母はそれ自体ではシスプラチン耐性を僅かにしか示さず、Cin5によるyAP-1活性抑制だけではそのシスプラチン耐性を説明できない。おそらくCin5はyAP-1以外の転写因子も同時に抑制することによってシスプラチン耐性を酵母に与えているものと考えられる。
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