本年度は昨年度に引き続き、胃酸分泌、血管内皮NO遊離、血管平滑筋細胞の増殖に関与する容量性カルシウム流入の存在について検討した。その成果を次の3点にまとめた。(1)マウス摘出胃標本における検討:カルシウムポンプ阻害薬タプシガルギン、ジブチルヒドロキノンにより細胞内カルシウムストアのカルシウムを枯渇させる処置を行うと、わずかながら胃酸分泌の亢進が認められた。この胃酸分泌亢進は外液カルシウム濃度依存的であり、カルシウム拮抗薬では抑制されなかった。前年度の結果と考え合わせると、胃壁細胞には酸分泌に関連する容量性カルシウム流入の存在が示され、これは電位依存性L型カルシウムチャネルを介していないことが明らかとなった。また、エンテロクロマフィン様細胞を介するコリン作動性酸分泌反応は外液カルシウム濃度の変化に大きく影響を受けることを見出したが、容量性カルシウム流入については明らかにできなかった。(2)培養血管平滑筋細胞を用いた検討:組織片培養法を用いて標本を作製し、細胞内カルシウムレベルに対するアンジオテンシン、セロトニン、ATP(細胞増殖を促進させる薬物)の作用を検討したところ、細胞外からのカルシウム流入に基づく細胞内カルシウムの上昇が観察された。このカルシウム流入は非選択的カチオンチャネルを介するものであった。これらの結果より、血管平滑筋細胞は収縮型から増殖型に形質変換する際に受容体に連動するカルシウム流入が非選択的カチオンチャネルを介する経路に変わることが示唆された。(3)摘出大動脈標本を用いた検討:タプシガルギンは血管内皮細胞に由来する容量性カルシウム流入を引き起こし、さらにNOを介する内皮依存性血管弛緩も惹起した。これらの結果より、血管内皮細胞にNO遊離に関連する容量性カルシウム流入の存在が示唆された。
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