細胞内の長鎖脂肪酸の分解は主にミトコンドリアのマトリックスにおいて行われる.しかし、ミトコンドリア内膜はほとんどの分子に対して不透過性を示すため、脂肪酸はそのままではマトリックスに移行できない.カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼI(CPTI)は長鎖脂肪酸のアシル基をカルニチンに転移するタンパク質で、この働きにより長鎖脂肪酸はマトリックスへ移行することが可能となる.CPTIには2種類のアイソフォームが存在し、筋肉や脂肪組織など脂肪酸代謝の活発な組織においては筋型アイソフォームが発現している. 申請者らは、筋型CPTIをコードするcDNAおよび遺伝子の単離と構造解析を世界に先駆けて行い、(1)ヒト筋型CPTIの翻訳開始コドンを含むエクソンの上流にはアミノ酸に翻訳されないエクソンがさらに2つ存在しこれらは選択的であること、(2)本遺伝子のすぐ上流にはコリン/エタノールアミンキナーゼ(CEK)遺伝子が筋型CPTI遺伝子と同じ方向で存在することを明らかとした.さらに、(3)CEK遺伝子の3'非翻訳領域においてスプライシングを受け、筋型CPTI遺伝子の5'非翻訳領域と結合した形のmRNA、すなわち2つの遺伝子の配列を有したmRNAが存在することを明らかとした. 解析の結果、このmRNAは、(1)筋型CPTIのアミノ酸コード領域を全て含んでいること、(2)CEK遺伝子の3'側から少なくとも3つのエクソンの構造を保持していることを明らかとした.このことから、CEKと筋型CPTIのアミノ酸コード領域を全て含んでいるmRNAが存在することが示唆された.現在、2つのコード領域を含んだmRNAを細胞にて合成させ、(1)タンパク質(特に筋型CPTI)は合成されるのか、(2)正常なCEKや筋型CPTI mRNAの安定性や細胞内輸送、翻訳に何らかの影響を与えるのか、などその生理的役割の解明に取りかかっている.
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