ダイオキシン類およびコプラナーPCBにより誘導されるタンパク質には、様々な薬物代謝酵素が知られているが、そのいずれかについても、毒性発現機構を説明するには不十分である。申請者らにより見い出されたラット肝サイトソルに存在するセレン結合性タンパク質(SeBP)は、コプラナーPCBによる顕著な誘導が明らかにされているものの、その他の知見はほとんど得られていない。本研究では、未解明な点が多いSeBPの生理的機能を、分子生物学的な知見から明らかにするため、その塩基配列の解析を行った。MC処理ラット肝臓より調製したmRNAとマウスSeBPのcDNAの塩基配列を利用して設計した数種のプライマーを用いてRT-PCRを行い、特異的に増幅するバンドをアガロースゲル電気泳動により分離し、その増幅産物をゲルから抽出精製してベクターに組み込み、大腸菌に導入した。増殖させた大腸菌から、プラスミドDNAを抽出しその塩基配列の解析を行った。今回の結果から、我々は、ラットSeBPのopen reading frameを含む、全1685bpの塩基配列を解析するに至った。また、この塩基配列からアミノ酸配列への翻訳を行った結果、全472アミノ酸の配列が推定された。この塩基配列およびアミノ酸配列は、マウスSeBPのそれぞれと、82%、および92%の相同性を示すことが明らかとなった。また、酸化還元に関わるタンパク質のいくつかがもつことが知られているユニークなモチーフ、bis(cysteinyl)sequence motifの存在が示唆されたことから、本タンパク質は、細胞内において酸化還元に関わりをもつタンパク質の1つである可能性が考えられた。この結果は、未解明な点が多いコプラナーPCBの毒性発現機構の解明に、新たな知見を与えるものであると考えられる。
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