浸潤・転移性の高い癌細胞は、細胞性線溶能(細胞周囲におけるウロキナーゼ/プラスミン活性)が亢進していることから、癌の浸潤・転移には血液凝固・線溶系の酵素およびその調節因子が深く関与しているものと考えられている。トロンボモジュリン(TM)は従来からトロンビンの作用を調節することによって血液の凝固を制御する抗凝固因子として知られていた。さらに新たな機能としてTMは線溶抑制作用(トロンビン依存性)を有することも明らかにされている。最近私はTMがトロンビン存在下においてヒト線維肉腫HT1080の浸潤能を抑制することを見い出した。しかしながら、TMの癌浸潤抑制作用の機序は不明である。本研究では、細胞周囲における線溶能の抑制は癌浸潤の抑制につながるものと考え、TMによる癌細胞の線溶能・浸潤能抑制の機序を明らかにすることを目的とした。 1.uTMは、ヒト線維肉腫HT1080(TM非発現癌細胞)およびマウスメラノーマB16F10(TM非発現癌細胞)が培養液中に分泌するプロウロキナーゼのトロンビンによる分解失活化を促進した。 2.HT1080のマトリゲル浸潤能はトロンビン存在下において、uTMの濃度依存的に抑制され、この作用は抗TM抗体の添加によって阻害された。 3.B16F10の浸潤能は、HT1080の場合と異なりuTM単独の添加(トロンビン非存在条件)によって抑制された。この作用は抗TM抗体を共存させることにより阻害された。 以上のことから、uTMはトロンビンと協同して細胞線溶活性を低下させ、癌細胞の浸潤能を抑制することが示唆された。さらに、uTMによるB16F10浸潤抑制にはトロンビン依存的な線溶抑制以外の機序が関与するものと推察された。
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