昨年度までに可溶性トロンボモジュリン(ヒト尿由来トロンボモジュリン:uTM)が、トロンビン存在下でヒト線維肉腫HT1080の細胞線溶活性を低下させ(プロウロキナーゼの分解促進)、HT1080のMatrigel浸潤を抑制することを明らかにした。本年度は、トロンビン非存在、および存在下におけるマウスメラノーマB16F10細胞のMatrigel浸潤に対するuTMの抑制作用について検討した。その結果、B16F10細胞の浸潤はuTM(10-1000ng/ml)を添加することにより用量依存的に抑制され、100ng/ml以上の濃度で約50%の抑制が認められた。このuTMによる浸潤抑制は、抗ヒトTM IgGを共存させることにより消失した。なおB16F10細胞およびMatrigel中にプロトロンビン/トロンビン活性は検出されなかった。また、B16F10細胞の浸潤はトロンビン(1.0NIH unit/ml;約10nM)を添加することによって1.5倍促進され、このトロンビン処理による浸潤促進は、過剰のトロンビン阻害剤ヒルジン(10 units/ml;80nM)またはuTM(1000ng/ml;13nM)でトロンビン未処理細胞の浸潤レベルまで抑制された。ヒルジンとuTMの共添加は、ヒルジン単独よりもB16F10細胞の浸潤を抑制し、トロンビン未処理細胞の浸潤レベルの約60%にまで低下させた。これらのことから、uTMはB16F10細胞の浸潤に対してトロンビンとは無関係な機序を介し、抑制作用を有することが示唆された。以上のように、可溶性TM(uTM)はトロンビン依存的な浸潤抑制作用(細胞線溶抑制作用)と、トロンビン非依存的な浸潤抑制作用の両方を有する可能性が示唆された。
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