ある種の蛋白質は脂肪酸により修飾されており、N末のグリシン残基にミリスチン酸がアミド結合するミリストイル化や、システイン残基にパルチミン酸がチオエステル結合するパルミトイル化などがある。このふたつのアシル化のなかで、チオエステルを介するパルミトイル化(S-アシレーション)は、その結合が可逆的でS-アシル化および脱アシル化が、蛋白質の機能や局在性を可逆的に調節し、分子スイッチの役割をしていることが考えられている。しかし、これまでS-アシル化および脱アシル化に関与する酵素の性状は明らかでない。様々な研究グループが、脱アシル化に関与するチオエステラーゼの精製を試みているが、酵素の諸性質から、それらの酵素が、はたして本当に、S-アシル化蛋白質の脱アシル化に関与するかは明らかになっていない。いままで同定された酵素が全て、アシルCoAを水解する活性をもっているということに着目して、既知のアシルCoAヒドロラーゼに、S-アシル化蛋白質の脱アシル化活性があるかどうか検討中である。 1、基質蛋白質のひとつとして脳成長円錐画分に濃縮されており、神経軸索の成長に関与しているとされる、GAP-43をもちいた。脳成長円錐膜画分を標識したアシルCoAとインキュベートすると、GAP-43へ放射活性の取込みがみられた。また、GAP-43へアシル基を転移するアシルトランスフェラーゼの細胞内分布を調べると、この活性は膜画分に存在した。さらに、膜画分にパルミトイル化GAP-43を脱アシル化する酵素活性が存在した。 2、これらの現象を再現させるため、基質蛋白質およびアシルCoAヒドロラーゼの発現系を作成中である。これらの酵素と基質の組合せが、成長円錐画分でみられた現象を再現できるかどうか、検討中である。また、基質にH-Ras p21を用いた発現系も作成している。
|