研究概要 |
神経成長因子(NGF)によって誘導される初期応答遺伝子TIS11に関する研究は,NGFの作用機序を解明するうえで興味ある研究テーマと考え,以下に示す研究を行った. 1.ラットTIS11遺伝子の転写開始点から上流5.3kbのDNA断片を用いて,TIS11遺伝子のプロモーター領域の解析を行った.その結果,定常状態において,5'上流域にはプロモーター活性を正や負に制御する領域が存在し,それらの制御領域を介してプロモーター活性が細胞特異的に調節されることを発見した(論文投稿中).また,NGFと同様にTIS11遺伝子の発現を誘導するフォルボールエステル(PMA)が,MAPキナーゼ経路を活性化させることによりプロモーター活性を増大させることを発見し,PMA刺激に応答するプロモーター領域を同定した(論文投稿中).NGFもMAPキナーゼ経路を活性化させるので,NGFによるTIS11遺伝子の発現誘導にもMAPキナーゼ経路の活性化が関与する可能性があり,今後,この点を研究する予定である. 2.Zn^<2+>フィンガー構造を有する転写因子が数多く報告されていることから,Zn^<2+>フィンガー蛋白質であるTIS11が転写調節機能を有するか否かを検討した.その結果,TIS11蛋白質が,N末端の転写活性化ドメインを介してRNAポリメラーゼIIによる転写を活性化させることを発見し,TIS11蛋白質が転写促進因子であることを示唆した(論文投稿中).また,TIS11蛋白質が過剰に発現したPC12細胞では,細胞増殖能が低下していたことから,TIS11蛋白質の標的遺伝子が細胞増殖抑制に関与する遺伝子であることを想定している.以上のことから,現在,TIS11蛋白質の標的遺伝子を同定する研究を行っている.
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