【研究実施概要】本年度は虚血性神経細胞死のin vitro実験モデルの確立とその神経細胞死の発現機序の解明、ならびに本実験モデルにおける内因性神経保護物質の検索を行った。 【実験実験成績】ラットの初代培養大脳皮質ニューロンを用いて実験を行い、以下の成績を得た。 (1)培養大脳皮質ニューロンを低酸素・低グルコース液で30分〜90分間処置し、その後正常培地にて24時間インキュベートすることにより、処置時間に依存した神経細胞死が発現した。 (2)低酸素・低グルコース処置により発現する神経細胞死は、細胞外Ca^<2+>の除去、NMDA受容体拮抗薬のMK-801処置、一酸化窒素合成酵素阻害薬であるN^W-nitro-L-arginine処置により有意に抑制された。 (3)低酸素・低グルコース処置により発現する神経細胞死は、中枢神経系における神経修飾因子と考えられているアデノシン処置によっても抑制された。 (4)アデノシンの神経保護作用はアデノシンA_1受容体拮抗薬の8-cyclopentyltheophyllineおよびA_2受容体拮抗薬のKF-17114により減弱された。さらに、A_1受容体作動薬のN^6-cyclohexyladenosineおよびA_2受容体作動薬のCGS21680は低酸素・低グルコース処置により発現する神経細胞死を有意に抑制した。 【考察】低酸素・低グルコース処置により発現する神経細胞死はグルタミン酸-酸化窒素系の活性化を介していることが実験成績より明らかとなった。したがって、本モデルは虚血性神経細胞死モデルとして有用であると考えられる。本モデルにおいて、内因性物質であるアデノシンが保護作用を示した。アデノシンの保護作用にはA_1、A_2の両受容体サブタイプが関与しており、アデノシンは異なった2つの細胞内情報伝達系を介して神経保護作用を発現していると考えられる。
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