【研究実施概要】本年度は、昨年度に確立した虚血性神経細胞死のin vitro実験系を用いて神経細胞死の機序およびアデノシンの神経保護作用機序の検討を行った。 【実験成績】(1)細胞の形態観察および核染色の結果より低酸素・低グルコース処置により誘発される神経細胞死は一部はアポトーシス様の神経細胞死であるが、主としてネクローシス様の神経細胞死であることが示唆された。 (2)低酸素・低グルコース処置により誘発される神経細胞死はprotein kinase C(PKC)阻害薬のH-7およびCaM kinase II阻害薬のKN-62により有意に抑制された。 (3)低酸素・低グルコース処置により誘発される神経細胞死はアデノシンA1受容体拮抗薬のCPTおよびA2受容体拮抗薬のKF-17114のどちらによっても増悪された。 (3)Fura-2を用いて細胞内カルシウム濃度を測定した結果、アデノシンA1受容体作動薬のCHAは低酸素・低グルコース処置による細胞内カルシウム濃度の上昇を有意に抑制した。一方、A2受容体作動薬のCGS-21680はカルシウム濃度上昇を抑制しなかった。 (3)アデノシンの神経保護作用はcyclic AMP依存性蛋白リン酸化酵素(PKA)の阻害薬であるH-89により有意に減弱された。 (4)低酸素・低グルコース処置により培地中のアデノシン含量は処置時間に依存して上昇した。 【考察】虚血性神経細胞死は、虚血中に過剰遊離される興奮性アミノ酸のより惹起されるネクローシス様の神経細胞死であり、PKCの活性化、CaMKIIの活性化など、細胞内カルシウム濃度の上昇により活性化される細胞内反応が亢進していると推測される。一方、虚血状態においては、神経細胞からアデノシンが遊離され神経保護的に働いていると推測される。アデノシンはA1受容体を介するグルタミン酸遊離抑制作用と、A2受容体を介するPKAの活性化を伴う2つの作用機序を有しており、中枢神経系において虚血性の神経細胞死に対する内因性の神経保護因子として働いていることが示唆された。
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