研究概要 |
Streptomyces sp.MK251-43F3株から得られたジペプチジルペプチダーゼIV(DPP-IV,EC3.4.14.5)阻害物質は、各種機器分析により3-アミノ-1-[アミノ(スルホアミノ)ホスフィニル]-2-ピペリドン(C_5H_<13>N_4O_5PS)であることが明らかとなった。この阻害物質は新規な化合物であり、スルフォスチンと命名した。スルフォスチンは3位炭素とリンの2つの不斉中心を有している。 天然から得られたものは各種NMRスペクトルによって等量の立体異性体の混合物であることが示唆された。その塩酸加水分解物は等量の(S)および(R)-オルニチンを与えた。また、HPLC光学異性体分離カラム(CHIROBIOTIC T)による分離においても、2種類の立体異性体が等量存在し、両物質ともにDPP-IVに対して同程度の阻害活性を有していた。スルフォスチンは精製過程で立体異性化する可能性が考えられたため、新たに緩和な精製を行ない、得られたものを機器分析したところ、3(S)体と3(R)体の存在比は4:1であった。また、化学合成されたすべての立体異性体と比較検討し、天然物に存在する2立体異性体のリンの絶対配位はともに(R)であることを証明した。更に、pH8.0において3(S)体がエピ化し、精製過程で立体異性化が起きたことを明らかにした。以上より、放線菌が産生するスルフォスチンの立体構造は3位炭素が(S)、リンが(R)であることを明らかにした。 スルフォスチンと精製過程でエピ化した3(R)体はそれぞれ濃度依存的にDPP-IVを阻害し、同程度の阻害活性を有していた。両物質の阻害活性はDPP-IV阻害剤として知られるジプロチンAに比べ約100倍強いものであった。また、スルフォスチンとその3(R)体は他の数種のプロテアーゼに対して阻害活性をもたず、DPP-IVに対してのみ高い選択性を有していた。
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