研究概要 |
酵母におけるエンドサイトーシスの解析に用いるための新規なマーカータンパク質を検索して解析することを目的として本研究を遂行してきた。これまでに、その候補としてPmp120p、Pmp100pを検出し、Pmp120pのN末端アミノ酸配列を決定してGas1pと同定した。Gas1pは、酵母における主要なGPIアンカータンパク質である。本年度はGas1pの細胞内局在性についての解析を行った。まず、Gas1pの遠心分画を試みた。細胞膜のマーカータンパク質であるプロトンATPase(Pma1p)は、そのほとんど(90%以上)が低速遠心(12,000xg10分)の沈殿(LSP)に回収された。これに対して、成熟型Gas1pのうちLSPに回収されるものは全体の70〜80%程度で、残りは高速遠心(100,000xg60分)の沈殿(HSP)に回収された。このことから、Gas1pの一部は、Pma1pとは異なる細胞内局在性を持つ可能性が考えられた。次に、スフェロプラスト化した細胞をエンドグリコシダーゼH(EndoH)やプロテアーゼで処理して、これらの酵素に対する感受性の有無から細胞内Gas1pのうち細胞膜に露出しているものの割合を推定した。成熟型のGas1pは、ほぼ完全にこれらの酵素で消化された。このことから、成熟型Gas1pは、そのほとんどが細胞膜に存在していることが示唆された。また、HSP、LSPのそれぞれの画分に回収されたGas1pをショ糖密度勾配遠心で分画したところ、いずれの場合にもGas1pの挙動はPma1pのそれと一致していた。さらに、分画に先だって細胞のEndoH処理を行った場合、HSPに回収されるGas1pも低分子化していた。すなわち、1)Gas1pの一部は遠心分画でPma1pと異なる挙動(一部がLSPではなくHSPに回収される。)を示すが、2)EndoHやプロテアーゼに対する感受性や、密度勾配遠心分画の結果からは、Gas1p、Pma1pのいずれもが細胞膜に局在するということを示唆する結果が得られた。これらの結果を説明するための仮説として、現在のところGas1pとPma1pの細胞膜上の分布が異なるという可能性を考えている。すなわち、細胞膜上に、Gas1pのみを含み、Pma1pが排除された微小領域が存在するとする仮説である。動物細胞の細胞膜GPIタンパク質には、DIGあるいはカベオルと総称される微小膜構造への分布が報告されているものが存在し、このようなタンパク質の特徴の一つとして、非イオン性の界面活性剤に耐性であることがあげられる。これまでの解析結果からは、このような性質はGas1pには認められていないが、Gas1pのみを含み、Pma1pが排除された膜ドメインが存在する可能性を検証する目的で、現在、ステロール、あるいは、スフィンゴ脂質等細胞膜を構成する脂質の合成系に異常を持つ変異株を用いて、Gas1pの挙動を解析している。
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