研究概要 |
今年度は、まず、ヒトαBクリスタリンの3ヵ所のリン酸化部位(Ser19、Ser45、Ser59)をアスパラギン酸残基に置換した変異体を作製した。各種変異体を遺伝子導入により培養哺乳動物細胞に一過性に発現させ、それらの細胞抽出液をショ糖密度勾配遠心法により分画し、αBクリスタリンの重合状態を調べた。その結果、野生型のαBクリスタリンは見かけの分子量で約500kDa程度の重合体を作っていた。それに対し3カ所のリン酸化部位をアスパラギン酸残基に置換した変異体(S19,45,59D)は、約100kDa程度の重合体を作っていた。また、2カ所を置換した変異体(S19,45D、S19,59D、S45,59D)は200-300kDa、1カ所を置換した変異体(S19D、S45D、S59D)は300-400kDaの重合体をそれぞれ作っていた。さらに、恒常的にαBクリスタリンを発現している細胞にストレスを負荷し、リン酸化を引き起こした場合にも重合体の大きさが変化していた。これらのことから、リン酸化によってαBクリスタリンの重合状態が変化することが分かった。 また、ラットレンズにおける生後発達に伴うαBクリスタリンのリン酸化状態の変化を調べた。生後直後はリン酸化型αBクリスタリンは少なかったが成長するにつれてリン酸化型、特にSer45のリン酸化型が顕著に増加していた。Ser45をリン酸化するp44/42MAPキナーゼは、ラットレンズにおいて生後発達に伴い活性化型が増加していた。これらのことから、ラットレンズにおいては、生後発達に伴うp44/42MAPキナーゼの活性化を介してαBクリスタリンのSer45のリン酸化型が増加することが分かった。
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