カチオン性薬物の多くは、生理的pH条件において解離型として存在するにも関わらず、経口投与後良好に吸収されることが知られているが、その機構については未だ不明な点が数多く残されている。本研究では、ヒト消化管モデルとして繁用されている培養腸上皮細胞Caco-2を用い、カチオン性薬物ジフェンヒドラミンの輸送機構について検討を行った。Caco-2細胞におけるジフェンヒドラミン取り込みには、温度依存性・基質飽和性が認められ、さらにその取り込みはpH依存的であった。種々カチオン性化合物による取り込み阻害効果について検討したところ、ジフェンヒドラミンと構造上類似したクロルフェニラミンによる取りこみ阻害が認められたが、他の抗ヒスタミン薬や種々生体アミン、神経伝達物質による影響は全く認められなかった。また腎臓に発現する有機カチオン輸送系基質の影響について調べたところ、プロカインアミドによってのみジフェンヒドラミン取り込みが阻害された。これらジフェンヒドラミン、クロルフェニラミン、プロカインアミドは三級アミンであることから、次に種々三級アミン化合物による影響について検討したところ、N-ジメチルもしくはN-ジエチル構造を特異的に認識する新規輸送体の存在することが明らかとなった。さらに多孔性フィルター上に培養したCaco-2細胞を用いてジフェンヒドラミンの経細胞輸送特性について検討した結果、ジフェンヒドラミンは分泌方向優位に輸送されることが判明した。本研究で見いだされた新規三級アミン輸送体は、生理的条件下では生体異物である三級アミンの消化管からの排泄に関与しているものと考えられるが、経口投与後の濃度勾配に従った薬物吸収にも関与している可能性が示唆された。
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