メタロチオネイン(MT)の発現が、細胞内レドックス状態によりその活性が調節されているNF-κBなどの転写因子の活性化に及ぼす影響を検討するために、まず、MT欠損マウスより調製したMT欠損細胞にMTの遺伝子を再導入し、MT欠損細胞由来のMT発現細胞株M1、M4を樹立した。次に、これらの細胞を腫瘍壊死因子(TNF)で刺激した後に、核蛋白質を抽出し、NF-κB結合配列をもつDNAプローブを用いたゲルシフト法を行った。その結果、MT発現細胞M1、M4ではMT欠損細胞と比較し、核蛋白質のNF-κB結合配列に対する結合活性が有為に減少していることがわかった。さらに、NF-κB結合配列をもつプロモーターにレポーター遺伝子としてルシフェラーゼ遺伝子をつないだDNAを、これらの細胞に導入し、TNF刺激に応じた転写活性の上昇を検討したところ、転写活性もMT発現細胞で抑制されていることが明らかとなった。NF-κBの活性化においては阻害蛋白質IκBの細胞質内における分解およびそれに伴うNF-κBの核移行が必要であるが、MT発現細胞ではTNFで刺激した際に、MT欠損細胞と比較しIκBの分解も抑制されていた。以上の結果から、MTは細胞質内のレドックス状態を変化させることにより、IκBの分解抑制を介してNF-κBの活性を負に調節している可能性が示唆された。また、MTは細胞の種類や状態によっては核に局在することが知られており、核においても転写因子の活性調節に関与している可能性も考えられる。現在、この点を明らかにするために、MTに核移行シグナルをつけた形でMTをMT欠損細胞に発現させ、核にMTを局在化させた細胞を調製することを試みている。
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