全人的医療実現のためには、医療者が患者と適切なコミュニケーションを取り、その心理内界まで理解した上でニーズに応じたケアを提供する能力が求められる。そのため、診察室・面接室以外の場所、すなわちベッドサイドにおけるコミュニケーション・スキルの向上やこころのケアが重要となる。そこで本研究では、ベッドサイド・カウンセリング技法の整理・体系化と、それが多様なスタッフに共有されうるような教育・研修モデル構築を目的とした。本年度は、ともに臨床心理士である研究代表者と畝 由紀子の2名が経験したベッドサイド・カウンセリング事例の集積と分析を試みた。その結果、老人保健施設の高齢者35例(女性33名、男性2名;71〜92歳;平均年齢82.3歳 SD=6.0)および病院での10例(女性6名、男性4名;23〜78歳;平均年齢57.5歳、SD=20.0)の資料を得た。老人保健施設では骨折、脳血管障害、痴呆による移動の困難や、環境の変化が心的ストレスを生じる危険性からベッドサイドが選択された。病院でも高齢者はやはり脳血管障害が多く、若年者では脊椎・頸椎損傷者にベッドサイドが選択されていた。技法的には「いいかえ」、「要約」、「感情の反映」といった傾聴を基本とする技法が重視されたが、これは心的エネルギーの低下に配慮したものである。しかし、経過の進展に伴い心身状態の改善がみられると、「解釈」などの積極技法も有効であり、状態に応じた技法の統合的利用が重要となることが示唆された。面接の構造化においても、面接の主導権がクライエントにあることなどを状態に応じて繰り返し説明することが有効であった。これらの結果をふまえ、現在、面接技法や面接構造に関する留意点を整理し、研修カリキュラムおよびテキストを準備中である。次年度は、医学生・医療従事者にベッドサイド・カウンセリング研修会を実施し、多様な職種への研修効果の検討を行う予定である。
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