研究概要 |
女性において2本あるX染色体のうち1本が部分的あるいは完全に欠失することにより発症するターナー症候群患者は,正常な知能を有するにも関わらず,自閉症など社会の適応に障害があることが多い。近年,ターナー症候群患者で,1本しかない染色体が父親由来の場合は,母親由来の場合に比較して,優れた言語能力と社会的技能を有することが明らかにされた。このことから,X染色体上には社会的認知に関わる遺伝子が存在し,正常な場合この遺伝子はゲノム刷り込みを受け,父親由来の対立遺伝子のみから発現されると考えられる。そこで我々は,細胞工学的手法を用いたポジッショナルなアプローチにより,上述したX連鎖遺伝子の同定を進めてきた。染色体移入法により,父親由来と母親由来のX染色体1本を保持するマウス細胞を作製し,これらを用いて父方と母方で異なる発現を示すESTのスクリーニングを行い,刷り込みを受ける遺伝子を同定する。 まず,女性のヒト正常線維芽細胞をマウスA9細胞(HPRT-)と融合し,HAT培地で選択培養の後,ヒトX染色体を保持する雑種細胞194クローンを得た。染色体解析により高率に完全X染色体を保持するクローンを選択し,マイクロサテライトマーカーを用いた多型解析により,移入染色体の親由来を決定した。さらに,X連鎖座位のメチル化状態を解析することにより,そのX染色体の活性化状態を検索した結果,父方活性化X染色体(Xap),母方活性化X染色体(Xam)を保持するクローンをそれぞれ4クローン得た。現在,これらのクローンを用い,X染色体上の刷り込み候補領域に位置するESTについて発現パターンの解析を行っている。
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