ヒトSIM2遺伝子はダウン症候群の原因遺伝子として知られており、遺伝子のクロンニンーグ及びシークェシーングはすでに分子生物学教室の研究で発表され、その機能解析も進んでいる。特に、SIM2遺伝子のプロモーター領域に対する解析はレポーター遺伝子(ルシフェラーゼ)とのフュージョン遺伝子を作製して、細胞レベルで遺伝子の発現を試みた。その結果、SIM2遺伝子上流の2kb領域にいろいろな制限酵素で切り、その断片とルシフェラーゼ遺伝子をつなぎ、ルシフェラーゼの発現を観察したところ、1349bp以上の断片であれば、高い遺伝子発現が見られるが、その以下の場合遺伝子発現が弱く成るのが観察された。 今回、我々は、SIM2遺伝子上流プロモーター領域の1458bpの断片を用いて、レポーター遺伝子ベターガレクトーシダーゼ(β-GAL)とのフュージョン遺伝子を作製し、さらに、マイクロインジェクションでBDF1マウスの受精卵の前核に注入することによって、トランスジェニックマウスを作製し、このプロモーター領域の生体内の発現を検討した。先ず、対照群の受精卵にβ-GAL遺伝子をマイクロインジェクションし、一日目からβ-GAL遺伝子の発現が見られる。それに対し、SIM2プロモーター領域を持つβ-GALの発現は6日目、7日目に観察された。ただし、8日目から胚の発生が停止し、最後に死に至るのが観察された。以上の観察によって、SIM2プロモーター領域の存在で、胚の早期発生段階で、なんらかの理由で胚の発生が阻止され死に至ることが判った。SIM2プロモーターは発生に非常に重要な役割を果たしていることを示した。その原因を明らかにすることによって、ダウン症候群の病因の解明にも重要な意味を持つだろう。
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